ドナルド・トランプ米政権は7月初旬、9月からの新年度、オンライン授業だけを受ける外国人留学生のビザを取り消すと突然発表した。対面授業か、対面とオンラインのハイブリッド授業を行う学校に転校するか、できない場合は帰国するというものだ。大学や大学院だけでなく、高校や語学学校なども対象とされた。
教育現場では、新型コロナウイルスの感染拡大が続くなか、いかに学習や研究などの継続を行うか、血のにじむような努力をしていた。その最中の発表で、外国人留学生らは大混乱に陥った。
トランプ大統領の本心はよく分からない。すべてオンライン授業となった場合、留学生が米国に戻らないことで、留学生がもたらす経済効果を得られないことを警戒したともいえる。
しかし、米国で教育関係者に聞いてみると、「おそらく、目的は増え続ける中国人留学生の締め出しではないか」という声が圧倒的であった。
2018~19年度、米国の大学への世界からの留学生は約110万人で、アジアからは76万人で7割を占める。留学生全体で1番多いのは中国で、インド、韓国、サウジアラビア、カナダと続く。1994~97年は1位だった日本は現在8位で留学生の1・7%と、年々減少傾向にある。ボストンのあるマサチューセッツ州では、留学生の3分の1は中国人、日本人は10位でわずか1・5%である。
日本人学生の留学先の多様化も、米国への留学生が減少する一因といわれる。そもそも、留学生の世界順位で、日本は37位と先進国最低レベルであり、インドやサウジアラビア、ベトナムなどの台頭により、相対的に順位を下げている。
マサチューセッツ州の名門大学や、ボーディングスクール(=全寮制の寄宿学校)にも、米国民を圧倒する規模の中国人留学生が在籍していることへの警戒感はあった。それでも、中国人留学生を受け入れざるを得ない米国の私立学校の経済的事情もあった。
そこへ、トランプ氏は、ある種のメスを入れようとしたのだろう。
名門大学や、それらが立地する州は、そのような措置をとる連邦政府を提訴した。わずか1週間程度で、学生ビザ取り消し騒動は終息した。
しかし、本当に中国人を排除することなどできるのだろうか。現在の10代以下には、米国で生まれ、つまり学生ビザを必要とせずに、米国の学校に在籍できる中国人が激増している。彼らは米国籍を持ち、将来、選挙への投票権も持つ。
トランプ氏は、米国籍の「出生地主義の改正」にも意欲的のようだが、米国の歴史を大きく変える一大事であり、容易には進まないだろう。
今回の滞在で改めて感じるのは、米国が「グローバル化」と「多様性の許容」のはざまで苦悩しつつも、何とか前進させようとしていることだ。日本はどうするのか。政治のリーダーシップが必要である。
TOP画像)China State Visit
【激動!米国現地リポート】中国人の排除は現実にできるのか? 外国人留学生ビザ取り消し…目的は中国人の締め出しか (夕刊フジ短期連載「激動!米国現地リポート」2020年8月24日掲載)